- うつ病
抑うつ気分、非哀感、絶望感を生じます。
また「気が滅入る、寂しくて誰かがそばにいて欲しい」などと訴えます。
さらに「考えが浮かばない、頭の回転が鈍い、集中できない、決断力が落ちる、能率が停滞する」といった思考抑制という症状が出て、口数が少なくなり、話す速度も遅れがちになります。
悲観的に物事を考えるようになり、「自分は能力のないだめな人間だ」という自己の能力を過小評価する訴えを生じます。
自責感が強まり、「皆様に申し訳ないことをしてしまった、自分は罪深い人間だ」などと口にすることもあります。
多くの重いうつ病患者は「生きているのが辛いので死にたい」という自殺念慮を生じ、実際に自殺してしまうところがうつ病の恐ろしいところです。
うつ病では活動性が低下し、精神運動抑止という症状を生じます。
仕事に行きたくない、朝新聞が読めない、テレビを見てもつまらない、好きな趣味への関心がなくなるなどの症状も出現します。
あらゆる出来事への興味、関心がなくなるのがうつ病の特徴です。
不安感、焦燥感が強くみられる人もいます。
焦燥感にかられて何かにせきたてられるように落ち着きがなく歩き回ることがあります。
このような状態では自殺の危険が高まります。
また多くの患者が「朝方うつ症状が最も悪く、夕方になると良くなる」という日内変動症状を生じます。
参考文献:『はじめての精神医学』
- 家族療法
家族集団を研究と治療の単位として扱い、個人の問題を家族という脈絡の中で捉えようとします。
以前は治療の焦点はもっぱら個人にのみ当てられていましたが、こうした個人へのアプローチには限界があることから、家族集団の中でその個人を捉えなおし、そこにある対人関係のプロセスが注目されるようになりました。
治療にあたっては、まず、現在顕在化している問題が、その家族集団の中でどのように関連して起こっているのかを見出し、それに基づいて、家族成員がどのような形で実際に治療に参加できるかを考えていきます。
その後、一般的には問題行動をもつ個人を含め治療参加者全員に、治療における目標、期待を聞いていきます。
そして家族全員で合意の得られた治療目標を定めた上で、それぞれの治療戦略に基づいて介入を行っていきます。
参考文献:『心理学辞典』
- 気分障害
感情、気分が高揚する躁状態と、反対に抑制されるうつ状態の2つの病相があります。
躁とうつとの両方を繰り返すものを双極型(双極性障害)といい、うつだけを繰り返すものを単極型と呼びます。
参考文献:『はじめての精神医学』
【分類】 気分障害は双極性障害とうつ病性障害(単極性うつ病)の二つに分けられます。
前者は躁(とうつの両)病相をもつものをいい、後者はうつ病相だけを示すものをいいます。
双極性障害は双極Ⅰ型障害(本格的な躁状態がみられるもの)と双極Ⅱ型障害(躁状態が軽躁状態にとどまるもの)、さらに、軽症型として気分循環性障害に区別されます。
うつ病性障害には、本格例である大うつ病性障害と、軽症型としての気分変調性障害(抑うつ神経症に相当)があります。
さらに、その他の気分障害として、身体疾患に伴う気分障害、薬物による気分障害があります。
参考文献:『心理学辞典』
【頻度】 昔はそれほど多くはないといわれていました。
しかし、最近の調査では双極型が1%程度、単極型は16%(6人に1人)との数字があります。
つまり、うつ病はだれにでもかかりりうる普通の病気といえます。
またうつ病には性差があり、女性の方が男性よりも約2倍うつ病にかかりやすいとされています。
この理由は明確ではありませんが、内分泌的な影響や、女性特有のライフイベント(出産、閉経など)の影響などが考えられています。
【原因】 遺伝的素質と環境要因の複合です。
抗うつ薬の作用機序が脳内のノルアドレナリンあるいはセロトニンのシナプス前部神経終末への再取込みを阻害して、これらモノアミン(ノルアドレナリンあるいはセロトニン)の神経伝達を増やす方向に作用していることから、脳内のモノアミン系の異常が気分障害の原因であるとの説が有力です。
【誘因】 様々なストレスが挙げられます。
最近は成果主義が一般的となり、そのため特に民間企業では職場の過剰勤務がストレスとなり、その結果としてうつ病を発症する人たちが多く出現しています。
また種々の喪失体験(肉親の死亡、事業の失敗など)が原因となることがあります。
喪失体験以外の誘因としては、生活の大きな変化、責任の急増(昇進、出産など)、慣れた環境から新規の環境への移転(引っ越しなど)などもうつ病を誘発するきっかけになることがあります。
うつ病になりやすい性格として、普通以上に几帳面で生真面目なことがあげられます。
このような人たちは与えられたルーチンの仕事は確実にこなしていけますが、地位が上がったり、赤ちゃんができたりして今までの秩序がくずれ負担が増えると、その責任の重さに耐えられず、うつ病を発症してしまうと思われます。
参考文献:『はじめての精神医学』
- 気分安定薬
躁効果とともに躁うつ病(双極性障害)の病相再発予防効果があります。
炭酸リチウム(商品名リーマス)、カルバマゼピン(商品名テグレトール)、バルプロサン(商品名デパケン)の3種類が使用されます。
炭酸リチウムはかなり有毒な物質であり、血中濃度が上がりすぎると中毒を起こして死亡することがあります。
しかも、治療濃度と中毒濃度が接近しているので、絶えず血中濃度を測定しながら使用する必要があります。
また炭酸リチウムは腎臓病、心臓病など重い身体の病気をもった人や妊婦には使用できません。
通常、躁状態には気分安定薬と共に抗精神病薬を併用して早く鎮静させることを行います。
また双極性障害のうつ状態に抗うつ薬のみを使用すると躁転を生じやすいので、その場合には気分安定薬と抗うつ薬を併用して用いることが行われます。
参考文献:『はじめての精神医学』
- 気分変調性障害
ほとんど一日中の慢性的抑うつ気分が、少なくとも2年間持続します。
抑うつ気分の期間中、食欲減退または過食、不眠または過眠、気力低下または疲労、自尊心の低下、集中力の低下または決断困難、絶望感などの症状が見られます。
この障害の2年の期間中に、症状のない期間が2ヶ月より長く続くことはありません。
参考文献:『心理学辞典』
- クライエント中心療法
ロジャーズ(Rogrers, C. R.)により創始された心理療法で、その初期(1940年代)には非指示的精神療法と呼ばれていました。
それは、それまでの伝統的な指示的療法や解釈的な精神分析に対して、「指示を与えない」という特徴が強調されたことによります。
1951年には自らの立場をクライエント(来談者)中心療法と名づけました。
問題は何か、どう解決したら良いかについて、最も良く知っているのは、クライエント自身である。
従ってセラピストはクライエントに何かを教える必要はない。
クライエントの体験に心を寄せて、その体験を尊重することが重要である。
このような「クライエント中心」の態度によって、クライエントは本来の力を十分に発揮し問題を解決していく、と考えました。
ロジャーズはセラピストの態度条件として、①共感的理解、②無条件の肯定的配慮、③真実性(役割行動や防衛的態度を取らず、自身の感情とその表現が一致していること)を挙げています。
参考文献:『心理学辞典』
- 抗うつ薬
抑うつ気分を正常化し、うつ病の気分変調を改善します。
昔から用いられている三環系抗うつ薬は今でも使用される優れた抗うつ薬ですが、副作用も生じやすい薬物です。
これらの系統の薬剤は強いアセチルコリン受容体遮断作用(抗コリン作用)をもっています。
自律神経系の副交感神経の伝達物質はアセチルコリンですので、抗コリン作用のある薬物は副交感神経系の機能を抑制し、唾液分泌抑制の結果としての口渇、消化管運動抑制の結果としての便秘、排尿抑制としての尿閉などを生じます。
最近は選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬(SNRI)などの、副作用の少ない新しい抗うつ薬が開発され使用頻度が増えています。
SSRIとSNRIは抗コリン効果や心毒性などがなく、副作用は少ないことが知られています。
参考文献:『はじめての精神医学』
- 抗不安薬
「マイナー・トランキライザー、穏和精神安定剤」とも呼びます。
神経症や心身症患者の不安、緊張を緩和するのが主な目的です。
さらに、てんかん、アルコール依存の離脱症状、統合失調症やうつ病に伴う不安・焦燥・興奮、不眠症状にも使用されます。
副作用として、眠気、ふらつきを生じることがあります。
参考文献:『はじめての精神医学』
- 社会不安
対人関係状況への恐怖であり、日本では以前から対人恐怖として記載されてきました。
社会不安障害ということもあります。
人々の注目を浴びるのが怖い、初対面の人や偉い人の相手をするのが苦手、人前で話したり、食事をしたり、字を書いたりするのが苦手といった症状が出現します。
人の視線が気になる、あるいは自分の視線がきつすぎて人に迷惑をかけているような気がするなどの症状が出ることもあります。
参考文献:『はじめての精神医学』
- 集団精神療法
治療的に組織された集団の中で、治療者とメンバー、またはメンバーとメンバーの間の対人交流や、集団の持つ力によって、参加メンバーそれぞれの人格や行動の改善を目指すものです。
個人精神療法に比較して、対人関係の障害が主な標的となる点と、過去の対人関係の歪みよりも、集団のその場で起こっていることが重視される点が特徴です。
治療理論や技法の違いによって、精神分析的集団療法、話し合いによる小集団および大集団精神療法、アクティビティ・グループと呼ばれる心理劇(サイコドラマ)やダンス療法、音楽や絵画などの芸術療法、ゲシュタルト療法、社会的スキル訓練などがあります。
参考文献:『心理学辞典』
- 心身症
はっきりとした身体の病気があり、その病気の原因や経過に心理的要因が重要な役割をもつものを心身症といいます。
心理的ストレスがその発症や経過に影響する身体疾患を指します。
主な心身症には次のような病気があります。
気管支喘息、本態性高血圧症、消化性潰瘍、過敏性腸症候群(ストレスによって下痢、便秘を繰り返すような人)、慢性蕁麻疹、円形脱毛症、インポテンス、頭痛、口内炎、メニエール症候群(耳鼻科的なめまいを主症状とするもの)などです。
心身症患者は内的感情を抑えて過剰適応の傾向があるので、自然な形での緊張の発散が行われず、それが慢性ストレスとなって心身症を引き起こすと考えられます。
さらにA型行動様式という虚血性心疾患に羅漢しやすい性格も有名です。
虚血性心疾患とは、心筋を栄養としている動脈に動脈硬化が起こり、血液の流れが悪くなって狭心症や心筋梗塞を起こす病気です。
A型行動様式の人は野心的、競争的、攻撃的、せっかちで仕事熱心といった面をもっています。
このような人は現実にも成功することが多いのですが、半面、絶えず緊張にさらされ、強い交感神経緊張が続き、そのために高血圧、ひいては動脈硬化を発症しやすいという傾向があるのです。
参考文献:『はじめての精神医学』
- 心的外傷後ストレス障害(PTSD)
自分自身や他人の死や、重篤な傷害に至る恐れのある事件を経験するといった外傷体験によって発症し、激しい恐怖感や無力感などを症状に含む不安障害の一つです。
具体的には、戦争、地震、津波、火災、交通事故などを経験したり、テロ、強盗殺人、レイプなどの犠牲者になるといったことをきっかけとして発症します。
病像としては、①悪夢やフラッシュバックによって外傷的出来事を繰り返し再体験する、②外傷的出来事と関連した刺激を持続的に回避しようとするか反応性の鈍麻を示す、さらには感情が萎縮し極度のうつ状態をきたしたり未来に対して展望を持つことができなくなる、③睡眠障害、易怒性、集中困難、極度の警戒心、驚愕反応・生理的反応など、覚醒の持続的な亢進を示す症状が認められる、の三つが中心となっています。
これらの症状は非常に耐えがたい苦痛を伴うため、日常生活は破壊され、対人恐怖、性的困難、離婚、失職、アルコール依存、自殺など更なる障害や不都合をきたすことも珍しくありません。
恐怖感などの反応は4週間以内に起こり、最低2日間、最大で4週間持続します。
それ以上続く場合に、心的外傷後ストレス障害と診断されます。
参考文献:『心理学辞典』
- 睡眠薬
睡眠の導入を促す薬です。
昔はバルビツール酸系睡眠薬が使用されましたが、薬物依存を生じやすく、また呼吸抑制の副作用を生じやすい欠点があり、使用しにくい薬でした。
最近はもっぱら、ベンゾジアゼピン系薬剤が睡眠薬としても使用されています。
ベンゾジアゼピン系薬剤は昔の睡眠薬よりも副作用は目立ちません。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬は作用時間により分類されます。
超短・短時間型(トリアゾラムなど)は服用後の血中濃度持続時間が短く、入眠障害(寝つきの悪いこと)のある人に用いられます。
副作用として、時に健忘を生じることがあります。
また睡眠薬服用を止めた後、かえって不眠が強くなってしまうことがあります。
中・長時間型(ニトラゼパムなど)は血中濃度持続時間が長く、熟眠障害(途中で目覚めてしまうこと)や早朝覚醒のある人に用いられます。
副作用として、翌日の倦怠感、ふらつき、眠気などがみられます。
参考文献:『はじめての精神医学』
- 躁病
躁状態では気分は爽快となり、態度は無遠慮になります。
また、思考の進みが早く、多弁になります。
話の筋が脱線しやすい観念奔逸という症状を出します。
注意散漫となり、注意が集中せず別の事柄に気持ちがそれやすくもなります。
活動性が亢進し、多動となり、人を訪問したり、おせっかいをやいたりします。
一方、身体的には睡眠時間は短縮し、性的関心は高まります。
行動過多であっても疲れを感じません。
参考文献;『はじめての精神医学』
- 適応障害
生活上での事件(退職、職場環境の変化、離婚、失恋、解雇など)が心理的ストレスとなって生じる不適切な反応です。
軽度のストレスは日常誰にも起こりうるものですし、大多数の人は一時的に落ち込むようなことがあっても立ち直るのですが、精神的に脆弱性のある人には障害を生じることがあります。
軽度の不安、抑うつ、心配などの精神面での症状が主です。
参考文献:『はじめての精神医学』
- 認知行動療法
ベック(Beck, A. T.)により始められた、認知の歪みに焦点を当てることによってうつ病やパニック障害など精神疾患の治療を行うものです。
ベックは、うつ病患者が、自己、世界、将来について悲観的に考えていることを見出し、こうした思考の様式が、うつ病患者に特徴的な「認知の歪み」によってもたらされると考えました。
うつ病患者が自ら日常生活を観察し、感情・思考のパターンに気付き、変化のきっかけを作り、再び問題に出会った時に自ら解決できるようにすることが認知行動療法の流れです。
つまり認知行動療法は援助であると同時に、教育・訓練でもあり、自己援助法の習得を目指しているとも言えます。
参考文献:『心理学辞典』『よくわかる臨床心理学』
- 箱庭療法
ローエンフェルド(Lowenfeld, M.)の世界技法を、カルフ(Kalff, D.)がユング(Jung, C. G.)の理論をベースに発展させた心理療法です。
砂の入った木箱と様々なミニチュアが用意され、クライエントは砂の上に自由にミニチュアを並べ、また砂で山を作るなどのイメージ表現を行います。
日本には河合隼雄が1965年に紹介し、以後大きな発展をみました。
遊び的な要素と構成的な要素があるので、子どもにも大人にも適用されます。
参考文献:『心理学辞典』
- 不安障害
かつては神経症(ノイローゼ)と言われていた病気の延長上にある概念です。
DSM-Ⅳでは、従来の神経症は病型によって四つ(不安障害・身体表現性障害・解離性障害・気分障害)に分類し直されています。
不安障害は、パニック障害、全般性不安障害、恐怖症性障害、強迫性障害、急性ストレス障害、外傷後ストレス障害に分類されます。
不安とは、恐怖、身体的不快、身体的症状の主観的な情動です。
通常ストレスによる正常な反応で、適切なレベルであれば有益であると言われています。
参考文献:『よくわかる臨床心理学』
- パニック障害
突然起こってくる種々の身体症状に強烈な不安、恐怖の感情を伴う恐慌発作を繰り返し起こす不安障害の一つです。
身体症状としては、息切れや呼吸困難、動機、胸部不快感、発汗、めまい、立ちくらみ、吐き気、震え、寒気など多彩なものが含まれますが、呼吸器系、心血管系の症状が前面に現れることが多く、患者はしばしば心臓発作や脳卒中が起こったのではないか、死んでしまうのではないかと思い込みます。
何度か発作を経験すると、また同じようなことが起こるのではないかという予期不安を絶えず抱くようになります。
さらには、家から遠く離れた場所、人混み、乗り物の中など、発作が起こったときに逃げられないか助けが得られないような場所に行くことを回避する空間恐怖を伴うようになる例も多いです。
参考文献:『心理学辞典』